2025年12月02日
白内障手術を受けた後「いつから運転できるのか」「見え方は大丈夫なのか」と不安に感じる方は少なくありません。日常生活の中で車を使う機会が多い方にとって、運転の再開時期は大きな関心ごとといえるでしょう。
しかし、手術後の視力の回復には個人差があり、すぐに以前と同じように運転できるとは限りません。無理に運転を再開すると、見え方の変化によって思わぬ危険を招くこともあります。そのため、運転を始める前には医師の許可を得ることが何より大切です。
本記事では、白内障手術後に運転を再開する際の一般的な目安や、注意すべき見え方の変化、安全に運転を始めるためのポイントを分かりやすく解説します。術後の生活に対する不安を解消するための参考にしてください。
この記事で分かること
- 白内障手術後に運転できるようになる一般的な目安
- 視力の回復過程と注意すべきポイント
- 安全な運転再開のための確認事項と医師の指導の重要性
白内障手術後はいつから運転できるの?
白内障手術後は、視界の明るさや色の見え方が変化し、少しずつ回復していきます。ただし、視力が安定するまでの期間は数日から数週間と人によって異なり、同じ手術を受けても見え方の回復スピードは一様ではありません。そのため「何日経過したら運転できる」といったような明確な基準は存在しません。
人によっては、一定期間待っても視界がまだぼんやりしていたり、まぶしさを感じたりすることがあるため、無理に車を運転するのは避けましょう。手術翌日は通院が必要ですが、自分で運転せず家族に送迎を頼むか、公共交通機関を利用してください。
運転再開は医師の許可を得てから
先述の通り白内障手術後は視力の回復に個人差があるため、医師の診察で「運転しても問題ない」と判断されるまでは、自己判断で運転を再開しないことが大切です。
普通自動車免許を保有している場合、道路交通法上の基準として「両目で0.7以上、かつ片目それぞれで0.3以上」の視力が必要とされています。この基準を満たしていても、まぶしさやコントラスト感度の低下が残っていると運転に支障を来す恐れがあります。
医師の診察で視力検査を受け、安全に運転できると判断されてから再開しましょう。見え方に少しでも違和感がある場合は、焦らず相談することが重要です。
なお、運転の再開は「どの程度見えているか」だけではなく、夜間や逆光などの環境下でも安全に運転できるかを考慮しなければなりません。
手術後すぐに運転してはいけない理由
白内障手術の直後に見え方が一時的に不安定になるのは、麻酔や点眼薬の影響が大きいです。これにより手術当日は視界がぼやけたり、ピントが合いにくくなったりして、正確な距離感や光の強弱を判断しづらくなるでしょう。
また術後は目を保護するために眼帯や保護ゴーグルを着ける必要があります。これらを装着した状態では、視野が狭くなったり、光の反射で見えにくくなったりすることもあるため、安全な運転環境とはいえません。
さらに、手術による緊張や疲労で体調が万全でないことも多く、注意力の低下も事故につながるリスクとなります。翌日以降の診察で問題がないと判断されるまでの間は、どんなに短距離でも運転を控えましょう。
手術後に一定期間懸念される見え方の変化
白内障手術後の見え方の変化は、手術による回復の過程で生じる生理的な変化であり、多くの場合は数日から数週間のうちに徐々に落ち着いていきます。
ただし、症状が強く現れる場合や長期間改善しない場合は、後発白内障や眼圧の上昇など、別の要因が関係していることも多いです。そのようなときは自己判断せず、早めに医師へ相談することが大切です。 次の項目では、手術後に見られる代表的な見え方の変化について詳しく解説します。
かすむ・ぼやける
白内障手術の直後に、視界がかすんで見えたり、全体がぼやけて見えたりすることは珍しくありません。これは、術後の回復過程で一時的に起こる一般的な症状です。手術によって一時的に眼内で炎症が起きたり、角膜がむくんだりしている可能性があります。このような状態で運転をすると、遠近感がつかみにくく、危険の察知が遅れるかもしれません。
炎症やむくみは、通常であれば処方される抗炎症薬や抗菌薬の点眼を継続することで落ち着き、数日から数週間のうちに視界が改善していきます。見え方の回復には個人差がありますが、途中で急な変化を感じた場合は、早めに医師へ相談することが大切です。
光がにじむ・まぶしく感じる
白内障手術後には、光がにじんで見えたり、まぶしさを強く感じたりすることがあります。これは多くの患者さまに見られる一時的な経過で、手術によって光の通り方が変化することが原因の一つです。
術後しばらくは、瞳孔の反応が安定していなかったり、眼内レンズに光が反射したり、角膜表面の回復途中で光が乱反射したりすることで、このような症状が生じます。視界が安定するまでは強い光を浴びると視認性が低下するため、運転をすると信号や対向車のライトがまぶしく感じ、危険な可能性もあるでしょう。
多くは時間の経過とともに改善していきますが、夜間のグレア(まぶしさ)やハロー(光の輪のような見え方)が残ることもあります。症状が続く場合は、夜間の運転を避けたりサングラスや遮光眼鏡を活用したりといった工夫が必要です。
色彩に違和感が出る
白内障手術では濁っていた水晶体を透明な眼内レンズに置き換えるため、手術後は色が明るく、やや青みがかって見えることがあります。これは手術によって視界の黄ばみが取り除かれ、本来の色調に戻る過程で起こる生理的な変化であり、異常なことではありません。
ただし色の変化に慣れないうちは、信号やブレーキランプなどの色の見分けが一時的に難しく感じる可能性があります。このような状態で運転を再開すると、判断を誤るかもしれません。
通常は数日から数週間のうちに脳が新しい色調に順応し、自然と違和感がなくなっていきます。強い違和感が続く場合や左右の目で色の見え方に差がある場合は、眼鏡の度数や照明環境を調整することで改善するケースもあるでしょう。
黒いものがちらつく
白内障手術後に、黒い点や糸くずのような影が視界に浮かんで見えることがあります。これは「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼ばれる症状で、加齢や手術の影響で硝子体という目の中の透明な組織が濁ることで起こります。
多くの場合は生理的な変化であり、時間の経過とともに気にならなくなるケースがほとんどです。ただし見え方が安定していない時期にこの症状があると、影が動いて視界を妨げたり、気が散ったりする恐れがあります。運転中にこれらが起きると危険です。
なお、もし「黒い影の数が急に増えた」「光が走るように見える」「視野の一部が欠けて見える」といった変化があった場合は、網膜剥離などの重大な疾患が隠れている可能性があります。こうした症状が出たときは、すぐに医師の診察を受けることが大切です。
安全に運転を再開するためのポイント
医師の許可を受けて白内障手術後に運転を再開する際は、まず自分の見え方をよく確認することが大切です。まぶしさが強くないか、視界がぼやけていないか、左右の目で見え方に違いがないかをセルフチェックし、少しでも不安がある場合は運転を控えましょう。手術後の視力が安定するまでの期間には個人差があり、焦らず慎重に様子を見ることが重要です。
また運転を再開する場合は、昼間の短距離から慣らすのが安心です。夜間や雨天時の運転は視認性が下がりやすく、光の反射や対向車のライトによって一層まぶしさを感じる可能性があります。視力やコントラスト感度が安定するまでは、夜間や長距離の運転は避けましょう。
さらには、手術によって水晶体が人工の眼内レンズに置き換わるため、手術前に使っていた眼鏡が合わなくなる場合があります。新しい眼鏡を作るのは、目の状態や創口が落ち着く術後1カ月以降が目安です。それまでは仮の眼鏡を使い、医師の指示に従って調整しましょう。
まぶしさを軽減させるためには、サングラスや遮光眼鏡の使用も有効です。特に日中の運転時には、紫外線や反射光から目を守ることで安全性が高まります。無理のない範囲で少しずつ運転に慣れていくことが、術後の生活を快適にする第一歩です。
白内障手術後の生活全般で注意すべきこと
白内障手術後は、傷口が完全にふさがるまでの間、目に細菌が入らないように注意することが大切です。特に術後1週間ほどは、目を強くつぶったり、こすったりする行為は避けましょう。外出時には保護ゴーグルをかけると、ほこりや風、花粉などによる刺激を防げます。
また乱視矯正レンズを挿入した場合は、術後すぐに目を大きく動かすとレンズの位置がずれる恐れがあります。視線を頻繁に動かすことは控え、医師の指示に従って日常生活を送りましょう。
処方された点眼薬は、術後の炎症や感染を防ぐために欠かせません。抗生物質や抗炎症薬など、複数の種類の点眼薬が処方されることもあるので、指示通りの回数で正しく使用しましょう。また手術後の経過を確認するための定期通院も重要です。たとえ術後の見え方に違和感がない場合でも、必ず予定通りに受診してください。
手術によって視界が明るくなり、すぐに普段通りの生活ができるように感じる場合もありますが、目はまだ回復途中です。「見えるようになったから」と無理をせず、目を保護する意識を持って過ごすことが、良好な手術結果を保つためのポイントです。
運転以外の日常生活の制限
白内障手術後は、運転以外にもいくつかの行動に制限があります。目の回復を妨げたり、感染のリスクを高めたりしないように、医師の指示に従って生活することが大切です。特に手術直後の1〜2週間は、日常的な行動への注意が必要です。
ここでは、代表的な生活動作である「洗顔・洗髪・入浴」「仕事・運動」「お化粧」について、それぞれの注意点を詳しく見ていきましょう。
洗顔・洗髪・入浴
手術後の感染を防ぐため、術後1週間ほどは目に直接水がかからないように注意が必要です。洗顔や洗髪を行う場合は、タオルで軽く拭く程度にとどめ、水が目に入らないようにしてください。入浴は翌日から可能ですが、汗や湯気が目に入らないよう、短時間で済ませましょう。美容院のように、上を向いた姿勢で誰かに洗ってもらうのも一つの手です。入浴後は、処方された抗菌点眼薬を忘れずに使用しましょう。
仕事・運動
仕事への復帰時期は職種によって異なりますが、デスクワークなど目や体への負担が少ない仕事であれば、手術の翌日から再開できる場合もあります。重い荷物を持つ作業や屋外での重労働は、目に負担がかかるため1週間程度は控えた方がよいでしょう。日常生活では、軽い家事や散歩程度の運動であれば翌日から行えます。
ただし、激しい運動や衝撃を伴うスポーツは避けてください。手術直後は眼内レンズがまだ安定していないため、目の状態が落ち着く術後1カ月までは無理をせず、医師の判断に従って再開しましょう。
お化粧
お化粧をする際も、感染や刺激を避けることが大切です。手術後1週間は、目の周辺のメイクを控えてください。ファンデーションやアイシャドウ、アイライン、マスカラなどを塗っている状態は細菌が付着しやすく、傷口から感染を起こす恐れがあります。アイメイクを再開するのは、目の状態が安定する術後1カ月以降が目安です。それまでは、目に触れない範囲での軽いメイクにとどめておきましょう。
まとめ
白内障手術後の運転再開は、視力が安定し、医師の診察で「運転して問題ない」と判断されてから行うのが基本です。見え方の回復には個人差があり、一般的な目安よりも時間がかかる場合もありますが、焦らずに回復を待つことが大切です。
また快適な見え方を維持するためには、点眼薬の使用を継続し、定期的に検診を受けて目の状態を確認することが欠かせません。視界が変化して違和感が生じた際は、自己判断せず早めに受診しましょう。
記事監修者について

眼科医 原田 拓二
医療法人社団廣洋会理事長
グループクリニックにて毎年2,000人を超える白内障患者の診察に従事。
また、年間700件以上のYAGレーザー治療(後発白内障)を行い、あらゆるタイプの白内障の術前・術後診療に精通する。
