2025年12月25日

白内障手術を受けた後「思っていた見え方と違う」「光がまぶし過ぎる」「度数が合っていない気がする」といった違和感に悩み、レンズ交換を検討する方が増えています。特に多焦点眼内レンズは利便性が高い一方、見え方の個人差が大きく、合う・合わないが生じる場合があります。
レンズ交換という選択肢は確かにありますが、誰でも簡単にできるわけではありません。初回の白内障手術とは異なり、交換手術は難易度が高く、目の状態によっては適応できないケースもあります。そのため、交換の必要性は慎重に判断し、まずは専門医の検査を受けることが重要です。
本記事では、レンズ交換が必要になる理由、実際の手術の流れ、判断の目安となるポイントを体系的に解説します。見え方の違和感に不安を感じている方が、適切な選択肢を検討できるような内容にまとめています。気になる症状がある場合は、早めに眼科専門医へ相談しましょう。
この記事で分かること
- 白内障手術後にレンズ交換が必要になる主な理由
- レンズ交換手術の流れと注意点
- 交換の判断基準と相談すべきタイミング
多焦点レンズで起こりやすい「合う・合わない」の問題
多焦点眼内レンズは、遠くも近くもバランスよく見えるように設計された便利なレンズですが、その構造上、特有の見え方の違和感が生じることがあります。代表的なものが、光が輪のように見えるハローや、光が広がるように感じるグレアです。夜間の運転や暗い場所で強く感じやすく「以前よりまぶしい」「周囲がにじんで見える」といった悩みにつながることがあります。
また多焦点レンズではコントラストが低下しやすく「はっきりしない」「なんとなく見えにくい」といった曖昧な違和感が続く場合もあります。これはレンズの構造によるもので、必ずしも異常ではありませんが、単焦点レンズと比べると個人差が出やすい点が特徴です。
こうした違和感は、時間の経過によって脳が見え方に慣れ、数週間から数カ月のうちに自然と気にならなくなるケースもあります。しかし、いつまでたっても違和感が続く場合は、レンズの種類変更や追加レンズ(Add-on IOL)など、別の選択肢を検討することがあります。
また角膜のゆがみが強い場合や、目に軽度の疾患がある場合など、もともとの眼の状態によって多焦点レンズが不向きとなることもあります。見え方に違和感が続くときは、まず専門医による検査で原因を確認し、自分の目に合った対処法を検討することが大切です。
レンズ交換を行う前に知っておくべきこと
白内障手術後のレンズ交換は、一般的な初回の白内障手術とは異なり、より高度な技術が求められる再手術です。レンズ交換は多焦点レンズの見え方の問題や度数ズレなどに対する選択肢として有効な場合がありますが、その判断には専門医による精密な検査が欠かせません。 まずは現在の目の状態を適切に評価し、交換以外の改善方法も含めて慎重に検討する必要があります。
レンズ交換が難しい理由
レンズ交換が難しい理由の一つは、眼内レンズが嚢内に強く癒着してしまうケースがあるためです。時間がたつほど癒着が進み、剥がす際に無理な力が加わると、嚢を傷つけてしまうリスクがあります。嚢が損傷すると新しいレンズを安定して固定できなくなる可能性があり、その結果、交換手術自体が不可能になる場合があるとされています。
またレンズ交換には「適応の限界」があり、症状があっても交換が最適とは限りません。見え方の違和感が強くても、眼の構造が交換に耐えられない場合は、別の方法で改善を図る必要があります。つまり、レンズ交換は誰でも受けられる手術ではなく、適応のハードルが高いことを理解しておくことが大切です。
レンズの固定位置(嚢の状態)で可能・不可能が決まる
レンズ交換が可能かどうかを判断する上で重要なのが、レンズを支える後嚢(こうのう)の状態です。後嚢がしっかり残っていれば交換が可能な場合がありますが、後嚢が弱っていたり、破れていたりすると、レンズ交換は難しくなります。レンズを安定して固定できなければ、見え方にさらなる問題が生じる可能性があるためです。
嚢の状態に問題がある場合、通常のレンズ交換ではなく、前房レンズや強膜内固定といった別の固定方法が必要になることがあります。これらの手技はさらに高度で専門性が求められ、全ての医療機関で対応できるわけではありません。交換の可否は、精密検査によって慎重に判断されます。
交換ではなく追加をする「アドオン眼内レンズ(Add-on IOL)」という選択肢も
白内障手術後の見え方に違和感がある場合、必ずしもレンズを取り外して交換する必要はありません。現在入っている眼内レンズをそのまま残し、上から新しいレンズを追加する「アドオン眼内レンズ(Add-on IOL)」という方法が選択肢になることがあります。
アドオン眼内レンズは、追加レンズを前房(角膜側)または後房(元のレンズの前面)に固定する方式で、既存のレンズには手を加えず視力を補正する仕組みです。レンズ交換と異なり、眼内レンズを取り外す操作が不要なため、嚢の状態が弱かったり、レンズが強く癒着していたりする場合でも検討できることがあります。特に、初回手術後の度数ズレや乱視矯正が十分でないケースでは、アドオンレンズが視力改善に有効となることがあります。
こうした特性から、アドオンレンズは「レンズ交換のリスクは高いが、視力の質を改善したい」という場面で活用できる手法です。一方で、炎症や眼圧上昇などのリスクがゼロではないため、メリットと注意点を踏まえた判断が必要です。専門医による詳細な検査を行い、眼の状態に応じてアドオンが適応できるかを慎重に見極める必要があります。
レンズ交換を判断する基準と相談の目安
白内障手術後の見え方に不満があっても、それが必ずレンズ交換の対象になるとは限りません。特に多焦点レンズの場合は、脳が新しい見え方に慣れるまで時間がかかることがあり、数週間から数カ月の経過で徐々に改善するケースも多くあります。
そのため、違和感があるからといってすぐに交換を選択するのではなく、まずは「改善が期待できるのかどうか」を専門医とともに慎重に見極めることが大切です。
軽度の度数ズレであれば、眼鏡の調整によって十分に補えることが多く、再手術を行わずに快適な見え方が得られる場合があります。特に多焦点レンズのコントラスト低下や軽度の遠視・近視のズレは、眼鏡でバランスを取ることで症状が改善するケースが多く報告されています。
一方で、慣れでは改善しないタイプの見え方の問題も存在します。見え方に悩みがある場合は、自己判断をせず、検査によって原因を明確にすることが大切です。特に著しい度数ズレやレンズの偏位がある場合は、どれだけ時間を置いても見え方が安定しないことが多く、早めの対応が必要になります。
また強いまぶしさや二重に見える症状が長期間続く場合、単なる慣れの問題ではなく、レンズ位置や光学特性に関連した問題が疑われます。こうした症状は日常生活に支障をきたしやすいため、我慢して様子を見続けるのではなく、早期に医師へ相談することが重要です。 交換が必要かどうかは、目の状態・症状の種類・改善の見込みなどを総合的に判断して決められます。
白内障のレンズ交換手術の流れ
白内障手術後にレンズ交換を行う場合、初回の白内障手術とは手順や注意点が大きく異なります。現在入っているレンズを慎重に取り外し、新たなレンズを安全に固定する必要があるため、より高度な技術と丁寧な評価が求められます。 以下で事前検査から術後の経過観察までの流れを見ていきましょう。
事前検査(眼軸長測定・角膜形状・後嚢の状態確認)
レンズ交換手術の可否は、術前に行う精密な検査によってほぼ決まります。眼軸長や角膜の形状、乱視の程度を測定し、どのレンズを選ぶべきかを判断します。
さらに後嚢に破損がないか、レンズがどの程度癒着しているかなどを丁寧に確認することで、安全にレンズを取り外せるかどうかを見極めます。嚢が弱っている場合は交換が難しくなるため、この検査は最も重要なステップといえるでしょう。
現在入っているレンズの状態評価
レンズ交換に進む前には、現在のレンズがどのような状態で固定されているかを詳細に評価します。レンズがずれている(偏位)、傾いている(チルティング)、嚢内に強く癒着しているといった状態があると、取り外す際の難易度が上がるのが一般的です。これらの評価に基づき、どの手技で取り出すのか、追加の処置が必要になるのかを慎重に判断します。
手術の方式と使用する器具
レンズ交換には、初回手術では行わない「レンズ摘出のための操作」が含まれます。粘弾性物質を用いてレンズと嚢の間を丁寧に剥がし、安全に取り出すのが基本となりますが、癒着の程度によっては特殊な器具や高度な技術が必要になることもあるでしょう。 後嚢が保持できない場合には、前房型レンズの固定や強膜内固定といった別の手法が選択される場合もあり、症例ごとの判断が重要となります。
手術後の経過と視力の安定までの期間
レンズ交換後は、初回の白内障手術よりも炎症や腫れが強く出る可能性があります。そのため、術後は点眼治療や通院を含め、より慎重な経過観察が必要です。視力が安定するまでには数週間から数カ月かかることもあり、焦らず経過を見ることが大切です。術後の見え方に不安がある場合は、自己判断を避け、医師の指示に従って適切にケアを行うことが求められます。
秋葉原白内障クリニックのレンズ交換
秋葉原白内障クリニックでは、白内障手術後の見え方に違和感がある方や、多焦点レンズでの光視症状に悩む方を対象に、再手術(レンズ交換)に関する相談を受け付けています。レンズ交換の可否判断から手術方法の検討まで、専門医が丁寧に対応する体制を整えています。
またレンズ交換の難易度が高いことを前提に、慎重な術前検査を行い、現在のレンズ位置・嚢(のう)の状態・交換の必要性を総合的に判断します。レンズ交換が難しいケースでは、アドオン眼内レンズのような別の方法も選択肢となり、患者さまの目の状態に合わせたアプローチを提案している点が特徴です。 再手術専門外来では、見え方の悩みに特化した相談ができる環境が提供されています。見え方に不安が続く場合や、他院手術後の違和感が改善しない場合にもご相談が可能です。
採用している多焦点眼内レンズ
秋葉原白内障クリニックでは、複数の種類の多焦点眼内レンズを取り扱っており、見える距離やレンズ構造など、それぞれの特性に応じて選択できる体制が整えられています。各レンズの概要を紹介します。
インテンシティ(Intensity)
イスラエル・Hanita社が開発した世界初の5焦点眼内レンズです。独自の「DLUテクノロジー(Dynamic light utilization technology)」により、従来の2焦点・3焦点より光効率を高め、遠方・遠中(133cm)・中間(80cm)・中近(60cm)・近方(40cm)の5つの距離で焦点が合う設計となっています。
光を効率よく利用できる構造のため、コントラスト感度に配慮されており、ハロー・グレアの自覚がやや少ないとされています。
- 光学部デザイン:5焦点回折型
- 乱視矯正:可
- 生産国:イスラエル
AT LISA tri[自由診療]
ドイツの光学メーカー・カールツァイス社製の3焦点レンズで、遠方・中間・近方のバランスに優れた構造が特徴です。幅広い適応範囲を持ち、強度近視や強度乱視で多焦点レンズを諦めていた方でも適応の可能性があるとされています。
- 光学部デザイン:3焦点回折型
- 乱視矯正:可
- 焦点距離:∞/80cm/40cm
- 生産国:ドイツ
ファインビジョン(FineVision)[自由診療]
ベルギー・BVI社の3焦点レンズで、特に近方(30〜35cm)に焦点を合わせやすい点が特徴です。遠方・中間(約75cm)・近方(約35cm)の3つの距離をカバーするため、手元作業が多い方に適した選択肢となります。
- 光学部デザイン:3焦点回折型
- 乱視矯正:可
- 生産国:ベルギー
クラレオン パンオプティクス[選定療養]
Alcon社製の3焦点レンズで、遠方・中間(60cm)・近方(40cm)の3距離に対応しています。中間から近方までの距離差が20cmに抑えられているため、日常生活で使う距離を連続して見やすい点が特徴です。
選定療養の対象となるため、健康保険と併用でき、比較的費用面の負担を抑えられます。
- 光学部デザイン:3焦点回折型
- 乱視矯正:可
- 生産国:アメリカ
クラレオン ビビティ(Vivity)[選定療養]
独自の波面制御技術を採用した「波面制御型焦点深度拡張レンズ」で、多焦点レンズの弱点であるハロー・グレアの軽減に配慮しつつ、単焦点レンズに近い構造を持っています。中間~遠方の視力が得やすく、加えて実用的な近方視力を補うことが可能です。
光の異常なにじみがほとんど生じにくい構造のため、夜間運転が多い方にも適した選択肢となると紹介されています。単焦点レンズに近い性質から、網膜疾患や緑内障がある方でも適応の可能性があります。
- 光学部デザイン:波面制御型
- 乱視矯正:可
- 焦点距離:∞〜50cm
- 生産国:アメリカ
採用しているアドオン眼内レンズ
当院で採用しているアドオン眼内レンズは、イタリア・ローマのSOLEKO社が開発したレンズで、単焦点タイプをはじめ、乱視矯正用単焦点(トーリック)、多焦点タイプ、乱視矯正用多焦点(多焦点トーリック)など、複数のバリエーションがあります。これにより、度数ズレや乱視の補正だけでなく、患者さまの見え方に合わせた幅広い選択が可能です。
特に、単焦点眼内レンズが挿入されている目に対し、多焦点タイプのアドオンレンズを追加することで、眼鏡を使わずに遠方から近方まである程度見やすくなる場合があります。なお、遠近両用モデルは遠方から40~50cm程度まで連続して焦点が合いやすいEDOF型です。 レンズは注文後、日本に到着するまで約3~5週間程度の期間を要します。また本レンズは国内未承認のため自由診療となり、手術費用は全額自己負担となります。
まとめ
白内障手術後のレンズ交換は、通常の手術と比べて難易度が高く、慎重な判断が求められる治療です。特に多焦点レンズでは、見え方に違和感を覚える方もいますが、その多くは時間の経過や眼鏡の調整で改善するケースが少なくありません。
一方で、度数ズレやレンズの偏位が原因となる症状は自然に改善しにくく、交換を検討すべき場合もあります。ただし、実際にレンズ交換が可能かどうかは、嚢(のう)の状態など厳しい適応条件を満たす必要があり、誰でも受けられるわけではない点を理解することが重要です。
見え方の違和感が続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、自己判断で放置せず、早めに専門医へ相談することをおすすめします。秋葉原白内障クリニックでは、レンズ交換や追加レンズに関する相談を受け付けており、目の状態に応じた適切な提案が可能です。どうぞお気軽にご相談ください。
記事監修者について

眼科医 原田 拓二
医療法人社団廣洋会理事長
グループクリニックにて毎年2,000人を超える白内障患者の診察に従事。
また、年間700件以上のYAGレーザー治療(後発白内障)を行い、あらゆるタイプの白内障の術前・術後診療に精通する。
