2025年12月24日

白内障は加齢によって誰にでも起こり得る病気として知られていますが「家族に白内障の人がいると、自分もなるのでは?」と心配する方も少なくありません。
結論からいえば、白内障の多くは加齢や生活習慣など環境的な要因によるものであり、必ずしも遺伝によって起こるものではありません。一方で、生まれつき白内障を発症する「先天性白内障」の中には、遺伝的な要因が関係しているケースもあります。 本記事では、白内障の基本から、遺伝が関わる先天性白内障の特徴、検査・治療方法までを体系的に解説します。「白内障と遺伝の関係」を正しく理解し、早期発見・早期治療の重要性を知っておきましょう。
この記事で分かること
- 白内障の原因と、加齢性と先天性の違い
- 先天性白内障における遺伝の仕組み
- 遺伝が疑われる場合の検査と治療の流れ
白内障とは?
白内障とは、目の中でレンズのような働きをする「水晶体」が濁り、光がうまく通らなくなる病気です。その結果、視界がかすむ、まぶしく感じる、ものが二重に見える、視力が低下するなどの症状が現れ、進行すると生活に支障を来すこともあります。
比較的多いのは、加齢に伴って水晶体のたんぱく質が変性し、濁りが生じる「加齢性白内障」です。その他にも、糖尿病、外傷、ステロイド薬の長期使用、紫外線などが要因として知られています。一部には遺伝的な体質が関係するタイプもありますが、ほとんどは加齢や環境によって起こる自然な変化といえるでしょう。
白内障と遺伝の関係
白内障と聞くと「親がなったから自分もなるかもしれない」と感じる方もいますが、実際には遺伝の影響は限定的です。加齢性白内障は、主に年齢や生活習慣に関係しており、遺伝的な要素が直接の原因になることはほとんどありません。
ただし、生まれたときから水晶体が濁っている「先天性白内障」の場合は、遺伝子の異常や代謝異常が関係していることがあります。先天性白内障は比較的まれな病気で、出生約1万人に1人程度の割合で発生するとされています。全てが遺伝によるものではありませんが、家族の中で複数人に発症が見られる場合には、遺伝性の可能性を考慮する必要があるでしょう。
先天性白内障とは?
先天性白内障とは、生まれた時点または出生直後から水晶体が濁っている状態を指します。新生児や乳児期に発見されることが多く、放置すると視力の発達に大きな影響を与えることがあります。 視覚の発達は生後数年が非常に重要な時期です。濁った水晶体を通してぼやけた映像しか見えない状態が続くと、視覚情報が脳に十分伝わらず「弱視」と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。このため、先天性白内障では「早期発見」と「早期手術」が将来の視力を守る上で欠かせません。
遺伝による先天性白内障
先天性白内障のうち、遺伝が関係しているケースは全体の約4分の1といわれています。両親のいずれかに遺伝性白内障がある場合、子どもにも発症する可能性が高くなる傾向があります。
遺伝の仕組みには「常染色体優性遺伝」「常染色体劣性遺伝」「X連鎖遺伝」などの型があり、どの遺伝形式かによって発症の割合や重症度は異なります。ただし、遺伝的な素因を持っていても必ず発症するわけではなく、発症の有無や程度は個人差があります。 診断の際には、家族歴の確認や遺伝子検査を行うことがあります。遺伝子の異常が見つかるケースもありますが、全ての症例で原因が特定できるわけではありません。そのため、臨床的な診察結果と併せて、眼科専門医による総合的な判断が重要です。
その他の要因による先天性白内障
先天性白内障の原因は遺伝だけではありません。妊娠中の母体の健康状態や環境によっても発症することがあります。代表的な要因には、妊娠初期の感染症(風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなど)が挙げられます。
また胎児の代謝異常(ガラクトース血症など)や染色体異常(ダウン症候群など)が原因となるケースも考えられるでしょう。さらに、薬剤の影響や放射線被曝など外的要因が関係することもあります。
これらは遺伝性ではないものの、生まれた時点で水晶体が濁っているため「先天性白内障」として扱われます。原因によって治療方針や手術時期が異なるため、早期の診断と専門医の判断がとても大切です。
白内障の遺伝が疑われる場合の検査方法
家族に白内障を持つ人がいる、または幼少期から視力に異常を感じる場合には、早めに眼科を受診することをおすすめします。白内障の有無や程度を確認するためには、細隙灯顕微鏡検査で水晶体の濁りの位置や範囲を調べるのが一般的です。
さらに、眼底検査で視神経や網膜の状態を確認し、他の病気が関係していないかをチェックします。遺伝が疑われる場合には、家族歴の聴取や遺伝子検査を行うこともあります。 検査によって原因が特定できることもありますが、結果が必ずしも治療方針を決める決定打になるとは限りません。それでも早期に異常を見つけることで、視力の発達を守るための最適な治療計画を立てやすくなります。特に先天性白内障の場合は、診断後の対応が非常に重要です。手術のタイミングや術後の視力補正の方法を早期に検討することで、将来的な見え方に大きな差が生まれます。
先天性白内障の治療と経過
先天性白内障の基本治療は、濁った水晶体を取り除く手術です。乳幼児期は視覚の発達が進む大切な時期のため、一般的には生後2〜3カ月以内に手術を行うことが推奨されることもあります。
手術によって濁りを取り除いた後は、焦点を合わせるために眼鏡やコンタクトレンズでの屈折矯正を行います。成長に伴って視力が安定してきた段階で、必要に応じて「眼内レンズ(IOL)」を挿入する二次手術を行うこともあります。さらに、手術後は弱視治療や視能訓練を続け、視機能の発達を支えていくことが重要です。
術後は定期的に通院し、眼圧や角膜の状態を確認しながら慎重に経過を見守る必要があります。
眼内レンズ(IOL)の使用について
成人の白内障手術では、濁った水晶体を取り除いた後に人工の「眼内レンズ(IOL)」を挿入するのが一般的です。しかし、小児や乳児では眼の成長が続いており、固定されたレンズを入れると将来的に度数が合わなくなる可能性があるため、すぐには挿入しないこともあります。 医師は子どもの年齢、眼の大きさ、将来的な視力の発達を総合的に考慮し、最適なタイミングや手術方法を判断するのが一般的です。成長後に視力が安定してから眼内レンズを挿入する「二次挿入手術」を選ぶこともあります。治療方針はお子さま一人ひとりの発達や生活環境によって異なるため、主治医とよく相談しながら慎重に進めていくことが大切です。
まとめ
白内障の中には遺伝性のものもありますが、多くは加齢や生活環境の影響によって起こる病気です。そのため、家族に白内障の人がいても、必ずしも遺伝するとは限りません。一方で、先天性白内障のように遺伝や妊娠中の環境が関係する場合は、早期発見と適切な治療が視力の発達を左右します。
先天性白内障では、手術だけではなく、術後の視力補正・訓練・経過観察といった長期的なサポートが不可欠です。早期に専門医の診断を受け、最適な治療方針を立てることで、良好な視機能の発達が期待できます。
